PCRの実際
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)はDNAを増幅する最も効果的で簡便な手段である。
耐熱性のポリメラーゼに鋳型DNA、プライマーDNAを用いることで、DNAを効率的に増幅することができる。
PCRは各種販売されている耐熱性のDNAポリメラーゼに付属しているプロトコール通りに行えばよいのであるが、
少し工夫をすることによって、節約になるとともにより綺麗な(非特異的増幅が少ないなど)PCRが可能となる。
また、PCRでは正確性や増幅効率などが酵素によって変わる。それぞれの酵素の特徴がカタログに掲載されいているが、実際に使ってみた感想と異なることがある。これは増幅するDNA配列によるので、私の場合としか言えないが、
個人的感想を含めてPCRのプロトコールを記載する。
当研究室では3つの酵素しか使っていない。
1. GoTaq(プロメガ)
http://www.promega.co.jp/gotaqfanclub.html
ゲノムへのDNA断片の挿入など、増幅したPCR断片の正確性を問わない時はこの酵素が便利である。Buffer、基質、酵素、アガロースゲル電気泳動に必要な色素まで入っている。
増幅効率もとても良い。価格も手頃なので使っている研究室も多いことだと思う。
難点としては、上記のように、Bufferから酵素まですべてあらかじめ混ざっているので、酵素だけ節約して使うなどの
オリジナルな手法を取りにくいことでだろうか。
2. KOD -Plus- Neo(Toyobo)
http://lifescience.toyobo.co.jp/user_data/category-pcr.php
遺伝子のクローニングでは、増幅したDNA断片に塩基置換(欠失、挿入、置換)が入ってはいけない場合も多い。
そのような正確性を求める場合には、正確性の高いポリメラーゼを用いるが、以前は増幅効率と反比例してなかなかPCRに成功しない(目的DNA断片が増えない)という難点があった。
最近はPCRのポリメラーゼも改良され、正確性が高くてもそらなりに増幅効率が良いものが販売されるようになった。
その中で評判の良いものはKOD -Plus- Neoである。以前の正確性の良いKOD -Plus-は増幅効率がとにかく悪く、かなり条件検討しなければDNA断片が得られなかった。この酵素ではかなり改良されている。
また、KOD -Plus- Neoでは酵素を節約することができることがある。
※必ず適用できるわけではないので、自分の系でお試しください。
プロトコールだと、50 μLの反応系に1μLのポリメラーゼを加えることになっている。しかし、当研究室ではポリメラーゼの量を0.1~0.2μLにしている。これでも増幅効率は変わらない。0.1 μLは取れないと思うので、最も細いチップの先にちょこんとつけて溶液に入れるイメージである。
KOD -Plus- Neoのデメリットとしては、「名前がわかりにくい」ことである(笑)。
このシリーズの名前のつけ方は、なんだろう・・・。
3. KOD DNA Polymerase(Toyobo)
http://lifescience.toyobo.co.jp/detail/detail.php?product_detail_id=166
3つのに使うのが初代KODである。色々と改良されているはずであるが、これが意外に現役で使えると感じている。使う場面はどこかというと、正確性が欲しい(配列にエラーが入ってはいけない)が、KOD -Plus- Neoで増えない時である。
KOD -Plus- Neoも増幅効率が上がったとはいえ、やはり正確性重視の酵素であるので、目的DNAが増えないことが多い。その時の選択肢としてKODを使っている。
企業のHPを見ると、KODは正確性に劣ると書いてあるが、正直エラーが入ったことはほとんどない(どんな酵素でも、
クローニングの際に絶対にエラーの入ってしまう遺伝子は除く)。増幅効率もとても良い。
問題点は何かと言うと、特異性が低い。すなわち、目的DNA断片以外のDNAも増えてしまうのである。
よって、アガロースゲル電気泳動を行うとバンドがたくさん出ることが多い。
ここでもKOD -Plus- Neoの酵素の節約が役に立つ。50 μLの系ならばポリメラーゼの量を0.1~0.2μLで十分である。
この方が、節約だけでなく、経験上特異性が上がることが多かった。
ただし、それでもシングルバンドで目的DNA断片が得られないことも多いので、ゲルから切り出して抽出後にDNAを使うのが一般的ではある。
最新の酵素を試していないが、とりあえず上記3つの酵素で事足りている。そのうち安価で正確性も良くて、増幅効率も揃った酵素がでるのだろうか。
※プロトコールは必ず他の文献などでもご確認ください。